青ざしや草餅の穂に出でつらん
曙はまだ紫にほととぎす
朝顔に我は飯食う男哉
朝顔は酒盛知らぬ盛り哉
朝露や撫でて涼しき瓜の土
足洗うてつひ明けやすき丸寝かな
紫陽花や帷子時の薄浅黄
紫陽花や薮を小庭の別座舗
明日は粽難波の枯葉夢なれや
暑き日を海にいれたり最上川
あつみ山や吹浦かけて夕すヾみ
雨折々思ふことなき早苗哉
あやめ生ひけり軒の鰯のされかうべ
あやめ草足に結ばん草鞋の緒
あらたふと青葉若葉の日の光
有難き姿拝まんかきつばた
ありがたや雪をかをらす南谷
烏賊売の声まぎらはし杜宇
いざ共に穂麦喰はん草枕
石の香や夏草赤く露暑し
いでや我よき布着たり蝉衣
命なりわづかの笠の下涼み
入る月の跡は机の四隅哉
岩躑躅染むる涙やほととぎ朱
憂き人の旅にも習へ木曽の蝿
鶯や竹の子薮に老を鳴く
団扇もてあふがん人のうしろむき
美しきその姫瓜や后ざね
卯の花も母なき宿ぞ冷じき
卯の花や暗き柳の及び腰
馬ぼくぼく我を絵に見る夏野かな
海は晴れて比叡降り残す五月哉
梅恋ひて卯の花拝む涙かな
瓜作る君があれなと夕涼み
瓜の皮剥いたところや蓮台野
瓜の花雫いかなる忘れ草
笈も太刀も五月に飾れ紙幟
近江蚊屋汗やさざ波夜の床
己が火を木々に蛍や花の宿
落ち来るや高久の宿の郭公
おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな
杜若われに発句の思ひあり
景清も花見の座には七兵衛
隠さぬぞ宿は菜汁に唐辛子
笠島はいづこ五月のぬかり道
笠寺や漏らぬ岩屋も春の雨
風薫る羽織は襟もつくろはず
風の香も南に近し最上川
かたつぶり角振り分けよ須磨明石
語られぬ湯殿にぬらす袂かな
鰹売りいかなる人を酔はすらん
鎌倉を生きて出でけん初鰹
髪生えて容顔青し五月雨
辛崎の松は花より朧にて
唐破風の入日や薄き夕涼み
川風や薄柿着たる夕涼み
象潟や雨に西施が合歓の花
木啄も庵は破らず夏木立
京にても京なつかしやほととぎす
清く聞かん耳に香焼いて郭公
清滝や波に塵なき夏の月
清滝の水汲ませてやところてん
水鶏啼くと人のいへばや佐屋泊り
草の葉を落つるより飛ぶ螢哉
愚に暗く茨を掴む蛍かな
雲の峰いくつ崩れて月の山
雲を根に富士は杉形の茂りかな
椹や花なき蝶の世捨酒
梢よりあだに落ちけり蝉の殻
木隠れて茶摘みも聞くやほととぎす
小鯛插す柳涼しや海士が家
子供等よ昼顔咲きぬ瓜剥かん
この寺は庭一盃のばせを哉
この螢田毎の月にくらべみん
この宿は水鶏も知らぬ扉かな
盛りなる梅にす手引く風もがな
桜より松は二木を三月越し
さざ波や風の薫の相拍子
篠の露袴に掛けし茂り哉
さざれ蟹足這ひのぼる清水哉
五月の雨岩檜葉の緑いつまでぞ
里の子よ梅折り残せ牛の鞭
里人は稲に歌詠む都かな
早苗とる手もとや昔しのぶ摺
五月雨に御物遠や月の顔
五月雨に隠れぬものや瀬田の橋
五月雨に鶴の足短くなれり
五月雨に鳰の浮巣を見にゆかん
五月雨の空吹き落せ大井川
五月雨の降り残してや光堂
五月雨は滝降り埋むみかさ哉
五月雨も瀬踏み尋ねぬ見馴河
五月雨や桶の輪切るる夜の声
五月雨や蠶煩ふ桑の畑
五月雨や龍燈あぐる番太郎
五月雨を集めて早し最上川
寒からぬ露や牡丹の花の蜜
皿鉢もほのかに闇の宵涼み
椎の花の心にも似よ木曽の旅
汐越や鶴脛ぬれて海涼し
閑さや岩にしみ入蝉の声
しばし間も待つやほととぎす千年
柴付けし馬のもどりや田植樽
しばらくは瀧にこもるや夏の初め
島々や千々に砕きて夏の海
白芥子に羽もぐ蝶の形見かな
白芥子や時雨の花の咲きつらん
白魚や黒き目を明く法の網
城跡や古井の清水まづ訪はん
涼しさや直に野松の枝の形
涼しさやほの三日月の羽黒山
涼しさを絵にうつしけり嵯峨の竹
涼しさを飛騨の工が指図かな
涼しさをわが宿にしてねまるなり
駿河路や花橘も茶の匂ひ
関守の宿を水鶏に問はうもの
剃り捨てて黒髪山に衣更
田一枚植ゑて立ち去る柳かな
たかうなや雫もよよの篠の露
高水に星も旅寝や岩の上
橘やいつの野中の郭公
七夕の逢はぬ心や雨中天
種芋や花の盛りに売り歩く
楽しさや青田に涼む水の音
田や麦や中にも夏のほととぎす
旅人の心にも似よ椎の花
苣はまだ青葉ながらに茄子汁
地に倒れ根に寄り花の別れかな
粽結ふ片手にはさむ額髪
撞鐘もひびくやうなり蝉の声
鶴鳴くやその声に芭蕉破れぬべし
鳥刺も竿や捨てけんほととぎす
どんみりと樗や雨の花曇り
無き人の小袖も今や土用干
夏来てもただひとつ葉の一葉かな
夏草に富貴を飾れ蛇の衣
夏草や兵どもが夢の跡
夏草や我先達ちて蛇狩らん
夏木立佩くや深山の腰ふさげ
夏衣いまだ虱を取り尽さず
夏の月御油より出でて赤坂や
夏の夜や崩れて明けし冷し物
夏山に足駄を拝む首途かな
南無ほとけ草の台も涼しかれ
西か東かまづ早苗にも風の音
合歓の木の葉越しも厭へ星の影
蚤虱馬の尿する枕もと
野を横に馬引き向けよほととぎす
楽しさや青田に涼む水の音
這ひ出よ飼屋が下の蟾の声
蓮の香を目にかよはすや面の鼻
初真桑四つにや断たん輪に切らん
花あやめ一夜に枯れし求馬哉
花と実と一度に瓜の盛りかな
腫物に触る柳の撓哉
日の道や葵傾く五月雨
百里来たりほどは雲井の下涼み
鼓子花の短夜眠る昼間哉
ひらひらと挙ぐる扇や雲の峰
昼顔に米搗き涼むあはれなり
昼顔に昼寝せうもの床の山
風流の初めや奥の田植歌
吹く風の中を魚飛ぶ御祓かな
富士の風や扇にのせて江戸土産
富士の山蚤が茶臼の覆かな
降らずとも竹植うる日は蓑と笠
降る音や耳も酸うなる梅の雨
古池や蛙飛びこむ水の音
蛍火の昼は消えつつ柱かな
蛍見や船頭酔うておぼつかな
牡丹蘂深く分け出づる蜂の名残かな
ほととぎす今は俳諧師なき世哉
ほととぎす裏見の滝の裏表
時鳥鰹を染めにけりけらし
時鳥正月は梅の花咲けり
ほととぎす鳴く鳴く飛ぶぞ忙はし
ほととぎす鳴く音や古き硯箱
ほととぎす鳴くや五尺の菖草
郭公招くか麦のむら尾花
秣負う人を枝折の夏野哉
先づ頼む椎の木も有り夏木立
又やたぐひ長良の川の鮎鱠
松風の落葉か水の音涼し
松杉をほめてや風のかをる音
眉掃を俤にして紅粉の花
三ケ月や朝顔の夕べ蕾むらん
湖や暑さを惜しむ雲の峰
水の奥氷室尋ぬる柳哉
水向けて跡訪ひたまへ道明寺
水無月は腹病やみの暑さかな
水無月や鯛はあれども塩鯨
見渡せば詠むれば見れば須磨の秋
麦の穂を力につかむ別れかな
麦生えてよき隠れ家や畑村
飯あふぐ嬶が馳走や夕涼み
目に残る吉野を瀬田の螢哉
窓形に昼寝の台や簟
麦の穂を便りにつかむ別れかな
掬ぶより早歯にひびく泉かな
めづらしや山を出羽の初茄子
目にかかる時やことさら五月富士
もろき人にたとへん花も夏野哉
やがて死ぬけしきは見えず蝉の声
宿りせん藜の杖になる日まで
柳行李片荷は涼し初真桑
山賎のおとがひ閉づる葎かな
山も庭に動き入るるや夏座敷
闇の夜きつね下はふ玉真桑
夕顔に干瓢むいて遊びけり
夕顔に見とるるや身もうかりひよん
夕顔の白ク夜ルの後架に紙燭とりて
夕顔や秋はいろいろの瓢哉
夕顔や酔うて顔出す窓の穴
夕晴れや桜に涼む波の華
夕にも朝にもつかず瓜の花
雪の河豚左勝水無月の鯉
行く駒の麦に慰むやどりかな
湯をむすぶ誓ひも同じ石清水
酔うて寝ん撫子咲ける石の上
世の夏や湖水に浮む浪の上
世の人の見付けぬ花や軒の栗
世を旅に代掻く小田の行きもどり
六月や峰に雲置く嵐山
我が宿は蚊の小さきを馳走かな
忘れずば小夜の中山にて涼め
笑ふべし泣くべしわが朝顔の凋む時
我に似るなふたつに割れし真桑瓜