青くてもあるべきものを唐辛子
青ざしや草餅の穂に出でつらん
青柳の泥にしだるる潮干かな
曙はまだ紫にほととぎす
あけぼのや白魚白きこと一寸
あこくその心も知らず梅の花
あち東風や面々さばき柳髪
鮎の子の白魚送る別れ哉
あらたふと青葉若葉の日の光
幾霜に心ばせをの松飾り
糸桜こや帰るさの足もつれ
糸遊に結びつきたる煙哉
凍て解けて筆に汲み干す清水哉
命二つの中にいきたる桜かな
芋植ゑて門は葎の若葉かな
入逢の鐘もきこえず春の暮
入りかかる日も糸遊の名残かな
植うる事子のごとくせよ児桜
うかれける人や初瀬の山桜
鶯の笠落したる椿かな
鶯や餅に糞する縁の先
鶯や柳のうしろ薮の前
鶯を魂にねむるか矯柳
うたがふな潮の花も浦の春
宇知山や外様しらずの花盛り
打ち寄りて花入探れ梅椿
姥桜咲くや老後の思ひ出
梅が香に追ひもどさるる寒さかな
梅が香にのつと日の出る山路哉
梅が香に昔の一字あはれなり
梅が香やしらら落窪京太郎
梅が香や見ぬ世の人に御意を得る
梅白し昨日や鶴を盗まれし
梅の木に猶宿り木や梅の花
梅柳さぞ若衆かな女かな
梅若菜丸子の宿のとろろ汁
うらやまし浮世の北の山桜
叡慮にて賑わふ民の庭竈
艶ナル奴今様花に弄斎ス
大津絵の筆のはじめは何仏
大比叡やしの字を引いて一霞
起きよ起きよ我が友にせん寝る胡蝶
御子良子の一本ゆかし梅の花
衰ひや歯に喰ひ当てし海苔の砂
おもしろや今年の春も旅の空
思ひ立つ木曽や四月の桜狩り
顔に似ぬ発句も出でよ初桜
牡蠣よりは海苔をば老の売りもせで
かげろふの我が肩に立つ紙子かな
陽炎や柴胡の糸の薄曇り
樫の木の花にかまはぬ姿かな
風吹けば尾細うなる犬桜
数へ来ぬ屋敷屋敷の梅柳
門松やおもへば一夜三十年
悲しまんや墨子芹焼を見ても猶
香に匂へうに掘る岡の梅の花
鐘消えて花の香は撞く夕哉
鐘撞かぬ里は何をか春の暮
甲比丹もつくばはせけり君が春
傘に押し分けみたる柳かな
神垣や思ひもかけず涅槃像
紙衣の濡るとも折らん雨の花
枯芝ややや陽炎の一二寸
獺の祭見て来よ瀬田の奥
香を探る梅に蔵見る軒端かな
元日は田毎の日こそ恋しけれ
元日や思えばさびし秋の暮
観音のいらか見やりつ花の雲
木曽の情雪や生えぬく春の草
きてもみよ甚平が羽織花衣
木のもとに汁も膾も桜かな
君や蝶我や荘子が夢心
京は九万九千くんじゅの花見哉
君や蝶我や荘子が夢心
草いろいろおのおの花の手柄かな
草の戸も住み替る代ぞ雛の家
草枕まことの華見しても来よ
草も木も離れ切つたるひばりかな
草臥れて宿かるころや頃や藤の花
雲とへだつ友かや雁の生き別れ
紅梅や見ぬ恋作る玉簾
声よくば謡はうものを桜散る
鸛の巣に嵐の外の桜哉
鸛の巣も見らるる花の葉越し哉
蝙蝠も出でよ浮世の華に鳥
この梅に牛も初音と鳴きつべし
この心推せよ花に五器一具
この種と思ひこなさじ唐辛子
この槌のむかし椿か梅の木か
このほどを花に礼いふ別れ哉
子に飽くと申す人には花もなし
薦を着て誰人います花の春
ごを焚いて手拭あぶる寒さ哉
蒟蒻に今日は売り勝つ若菜哉
蒟蒻の刺身もすこし梅の花
西行の庵もあらん花の庭
盃に泥な落しそ群燕
盛りぢや花に坐浮法師ぬめり妻
咲き乱す桃の中より初桜
さまざまのこと思ひ出す桜かな
四方より花吹き入れて鳰の波
しばらくは花の上なる月夜かな
丈六に陽炎高し石の上
初春まづ酒に梅売る匂ひかな
雀子と声鳴きかはす鼠の巣
住みつかぬ旅の心や置炬燵
草履の尻折りて帰らん山桜
袖汚すらん田螺の海士の隙を無み
誰が聟ぞ歯朶に餅負ふ丑の年
種芋や花の盛りに売り歩く
旅烏古巣は梅になりにけり
内裏雛人形天皇の御宇とかや
誰やらがかたちに似たり今朝の春
蝶鳥の浮つき立つや花の雲
蝶の飛ぶばかり野中の日影哉
蝶の羽のいくたび越ゆる塀の屋根
蝶よ蝶よ唐土の俳諧問はん
散る花や鳥も驚く琴の塵
月花もなくて酒のむ独り哉
月待や梅かたげ行く小山伏
躑躅生けてその陰に干鱈割く女
摘みけんや茶を凩の秋とも知で
鶴の毛の黒き衣や花の雲
庭訓の往来誰が文庫より今朝の春
手鼻かむ音さへ梅の盛り哉
天秤や京江戸かけて千代の春
当帰よりあはれは塚の菫草
年々や桜を肥やす花の塵
年々や猿に着せたる猿の面
年は人にとらせていつも若夷
土手の松花や木深き殿造り
永き日も囀り足らぬひばり哉
夏近しその口たばへ花の風
何の木の花とはしらず匂かな
菜畠に花見顔なる雀哉
奈良七重七堂伽藍八重ざくら
似合はしや豆の粉飯に桜狩り
猫の恋やむとき閨の朧月
猫の妻竃の崩れより通ひけり
子の日しに都へ行かん友もがな
涅槃会や皺手合する数珠の音
暖簾の奥ものふかし北の梅
呑み明けて花生にせん二升樽
海苔汁の手際見せけり浅黄椀
八九間空で雨降る柳かな
ばせを植ゑてまづ憎む荻の二葉哉
畑打つ音や嵐の桜麻
初午に狐の剃りし頭哉
初桜折りしも今日はよき日なり
初花に命七十五年ほど
花盛り山は日ごろの朝ぼらけ
花咲きて七日鶴見る麓哉
花に明かぬ嘆きや我が歌袋
花に遊ぶ虻な喰ひそ友雀
花にうき世我が酒白く飯黒し
花にいやよ世間口より風の口
花に寝ぬこれも類か鼠の巣
花にやどり瓢箪斎と自らいへり
花に酔へり羽織着て刀さす女
花の顔に晴れうてしてや朧月
花の陰謡に似たる旅寝哉
花の雲鐘は上野か浅草か
花は賎の目にも見えけり鬼薊
花見にと指す船遅し柳原
花木槿裸童のかざし哉
花を宿に始め終りや二十日ほど
葉にそむく椿の花やよそ心
原中やものにもつかず啼く雲雀
春風に吹き出し笑う花もがな
春雨や蜂の巣つたふ屋根の漏り
春雨や蓑吹きかへす川柳
春雨や二葉に萌ゆる茄子種
春雨や蓬をのばす艸の道
春たちてまだ九日の野山かな
春立つとわらはも知るや飾り縄
春立つや新年ふるき米五升
春なれや名もなき山の朝霞
春の夜は桜に明けてしまひけり
春の夜や籠り人ゆかし堂の隅
春もやや気色ととのふ月と梅
春や来し年や行きけん小晦日
腫物に触る柳の撓哉
一里はみな花守の子孫かや
一とせに一度摘まるる薺かな
人も見ぬ春や鏡の裏の梅
独り尼藁屋すげなし白躑躅
雲雀鳴く中の拍子や雉子の声
不精さや掻き起されし春の雨
二日にもぬかりはせじな花の春
二日酔ひものかは花のあるあひだ
船足も休む時あり浜の桃
古川にこびて目を張る柳かな
古巣ただあはれなるべき隣かな
古畑やなづな摘みゆく男ども
蛇食ふと聞けばおそろし雉子の声
蓬莱に聞かばや伊勢の初便り
発句なり松尾桃青宿の春
蛍見や船頭酔うておぼつかな
前髪もまだ若艸の匂ひかな
まづ知るや宜竹が竹に花の雪
待つ花や藤三郎が吉野山
またうどな犬ふみつけて猫の恋
真福田が袴よそふかつくづくし
水取りや氷の僧の沓の音
麦飯にやつるる恋か猫の妻
葎さへ若葉はやさし破れ家
餅花やかざしに插せる嫁が君
餅雪を白糸となす柳哉
餅を夢に折り結ぶ歯朶の草枕
物好きや匂はぬ草にとまる蝶
物の名を先づ問ふ蘆の若葉かな
物ほしや袋のうちの月と花
目の星や花を願ひの糸桜
藻にすだく白魚やとらば消えぬべき
山桜瓦葺くものまづ二つ
山里は万歳遅し梅の花
山路来て何やらゆかし菫草
山は猫ねぶりて行くや雪の隙
やまぶきの露菜の花のかこち顔なるや
山吹や宇治の焙炉の匂ふ時
山吹や笠に挿すべき枝の形
闇の夜や巣をまどはして鳴く鵆
夕晴れや桜に涼む波の華
雪間より薄紫の芽独活哉
行く春や鳥啼き魚の目は泪
行く春を近江の人と惜しみける
よく見れば薺花咲く垣根かな
吉野にて桜みせうぞ檜笠
四つ五器のそろはぬ花見心哉
世に盛る花にも念仏申しけり
世に匂へ梅花一枝のみそさざい
四方に打つ薺もしどろもどろ哉
龍宮も今日の潮路や土用干
両の手に桃と桜や草の餅
わが衣に伏見の桃の雫せよ
我がためか鶴食み残す芹の飯
煩へば餅をも喰はず桃の花
忘るなよ薮の中なる梅の花
我も神のひさうや仰ぐ梅の花