「西行の恋歌」 

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春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり
            
 

西行戀歌 INDEX 山家集より 

 戀歌

   

   

 戀百十  

 百首の歌の中、戀十首

  戀歌


 名を聞きて尋ぬる戀
あはざらむことをば知らず帚木のふせやと聞きて尋ね行くかな

 自門歸戀
たてそめて歸る心はにしき木の千づか待つべき心地こそすれ

 涙顯戀
おぼつかないかにも人のくれは鳥あやむるまでにぬるる袖かな

 夢會戀
なかなかに夢に嬉しきあふことはうつつに物をおもふなりけり

あふことを夢なりけりと思ひわく心のけさは恨めしきかな

あふとみることを限りの夢路にてさむる別のなからましかば

夢とのみ思ひなさるる現こそあひみることのかひなかりけれ
                               
 後朝
今朝よりぞ人の心はつらからで明けはなれ行く空を恨むる

あふことをしのばざりせば道芝の露よりさきにおきてこましや

 後朝時鳥
さらぬだに歸りやられぬしののめにそへてかたらふ時鳥かな

 後朝花橘
かさねてはこからまほしきうつり香を花橘に今朝たぐへつつ

 後朝霧
やすらはむ大かたの夜は明けぬともやみとかこへる霧にこもりて

 歸るあしたの時雨
ことづけて今朝の別はやすらはむ時雨をさへや袖にかくべき

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 逢ひてあはぬ戀
つらくともあはずば何のならひにか身の程知らず人をうらみむ

さらばたださらでぞ人のやみなましさて後もさはさもあらじとや

 
もらさじと袖にあまるをつつまましなさけをしのぶ涙なりせば

 ふたたび絶ゆる戀
から衣たちはなれにしままならば重ねて物は思はざらまし
                               
 商人に書をつくる戀といふことを
思ひかね市の中には人多みゆかり尋ねてつくる玉章

 海路戀
波のしくことをも何かわづらはむ君があふべき道と思はば

 九月ふたつありける年、閏月を忌む戀といふことを、人々よみけるに
長月のあまりにつらき心にていむとは人のいふにやあるらむ

 御あれの頃、賀茂にまゐりたりけるに、
 さうじにはばかる戀といふことを、人々よみけるに

ことづくるみあれのほどをすぐしても猶やう月の心なるべき

 同じ社にて、神に祈る戀といふことを、神主どもよみけるに
天くだる神のしるしのありなしをつれなき人の行方にてみむ

 賀茂のかたに、ささきと申す里に冬深く侍りけるに、
 人々まうで來て、山里の戀といふことを

かけひにも君がつららや結ぶらむ心細くもたえぬなるかな

 寄糸戀
賤のめがすすくる糸にゆづりおきて思ふにたがふ戀もするかな

 寄梅戀
折らばやと何思はまし梅の花めづらしからぬ匂ひなりせば

行きずりに一枝折りし梅が香の深くも袖にしみにけるかな

 寄花戀
つれもなき人にみせばや櫻花風にしたがふ心よわさを
                               
花をみる心はよそにへだたりて身につきたるは君がおもかげ

 寄殘花戀
葉がくれに散りとどまれる花のみぞ忍びし人にあふここちする

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 寄歸雁戀
つれもなく絶えにし人を雁がねの歸る心とおもはましかば

 寄草花戀
折りてただしをればよしや我が袖も萩の下枝の露によそへて

 寄鹿戀
つま戀ひて人目つつまぬ鹿の音をうらやむ袖のみさをなるかな

 寄苅萱戀
一方にみだるともなきわが戀や風さだまらぬ野邊の苅萱

 寄霧戀
夕ぎりの隔なくこそ思ひつれかくれて君があはぬなりけり

 寄紅葉戀
わが涙しぐれの雨にたぐへばや紅葉の色の袖にまがへる

 寄落葉戀
朝ごとに聲ををさむる風の音はよをへてかるる人の心か

 寄氷戀
春を待つ諏訪のわたりもあるものをいつを限にすべきつららぞ
                               
 寄水鳥戀
我が袖の涙かかるとぬれであれなうらやましきは池のをし鳥

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月待つといひなされつる宵のまの心の色の袖に見えぬる

しらざりき雲井のよそに見し月の影を袂に宿すべしとは
 
あはれとも見る人あらば思はなむ月のおもてにやどす心を

月見ればいでやと世のみおもほえてもたりにくくもなる心かな

弓はりの月にはつれてみし影のやさしかりしはいつか忘れむ

面影のわすらるまじき別かな名殘を人の月にとどめて

秋の夜の月や涙をかこつらむ雲なき影をもてやつすとて

天の原さゆるみそらは晴れながら涙ぞ月のくまになるらむ

物思ふ心のたけぞ知られぬる夜な夜な月を眺めあかして
                               
月を見る心のふしをとがにしてたより得がほにぬるる袖かな

おもひ出づることはいつもといひながら月にはたへぬ心なりけり

あしびきの山のあなたに君すまば入るとも月を惜しまざらまし

なげけとて月やはものを思はするかこち顏なる我が涙かな

君にいかで月にあらそふ程ばかりめぐり逢ひつつ影をならべむ

白妙の衣かさぬる月影のさゆる眞袖にかかるしら露

忍びねのなみだたたふる袖のうらになづまず宿る秋の夜の月

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もの思ふ袖にも月は宿りけり濁らですめる水ならねども

こひしさを催す月の影なればこぼれかかりてかこつ涙か

よしさらば涙の池に身をなして心のままに月をやどさむ
                               
うちたえてなげく涙に我が袖の朽ちなばなにに月を宿さむ

世々ふとも忘れがたみの思ひ出はたもとに月のやどるばかりぞ

涙ゆゑ隈なき月ぞくもりぬるあまのはらはらねのみなかれて

あやにくにしるくも月の宿るかなよにまぎれてと思ふ袂に

おもかげに君が姿をみつるより俄に月のくもりぬるかな

よもすがら月を見がほにもてなして心のやみにまよふ頃かな

秋の月もの思ふ人のためとてや影に哀をそへて出づらむ

隔てたる人のこころのくまにより月をさやかに見ぬが悲しさ

涙ゆゑつねはくもれる月なれば流れぬ折ぞ晴間なりける

くまもなき折しも人を思ひ出でて心と月をやつしつるかな
                               
もの思ふ心の隈をのごひすててくもらぬ月を見るよしもがな

戀しさや思ひよわると眺むればいとど心をくだく月かな

ともすれば月澄む空にあくがるる心のはてを知るよしもがな

詠むるになぐさむことはなけれども月を友にてあかす頃かな

もの思ひてながむる頃の月の色にいかばかりなるあはれそふらむ

天雲のわりなきひまをもる月の影ばかりだにあひみてしがな

秋の月しのだの森の千枝よりもしげきなげきや隈になるらむ

思ひしる人あり明のよなりせばつきせず身をば恨みざらまし

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數ならぬ心のとがになしはてじ知らせてこそは身をも恨みめ

打向ふそのあらましの面かげをまことになしてみるよしもがな
                               
山がつの荒野をしめて住みそむるかた便なる戀もするかな

ときは山しひの下柴かり捨てむかくれて思ふかひのなきかと

歎くともしらばや人のおのづから哀と思ふこともあるべき

何となくさすがにをしき命かなありへば人や思ひしるとて

何故か今日まで物を思はまし命にかへて逢ふせなりせば

あやめつつ人知るとてもいかがせん忍びはつべき袂ならねば

涙川ふかく流るゝみをならばあさき人目につつまざらまし

しばしこそ人めづつみにせかれけれはては涙やなる瀧の川

もの思へば袖にながるる涙川いかなるみをに逢ふ瀬ありなむ

うきたびになどなど人を思へども叶はで年の積りぬるかな
                               
なかなかになれぬ思ひのままならば恨ばかりや身につもらまし

何せんにつれなかりしを恨みけむあはずばかかる思ひせましや

むかはしは我がなげきのむくいにて誰ゆゑ君がものをおもはむ

身のうさの思ひ知らるゝことわりにおさへられぬは涙なりけり

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日をふれば袂の雨のあしそひて晴るべくもなき我が心かな

かきくらす涙の雨のあししげみさかりに物のなげかしきかな

物思へどかからぬ人もあるものをあはれなりける身のちぎりかな

いはしろの松風きけば物を思ふ人も心はむすぼほれけり

なほざりのなさけは人のあるものをたゆるは常のならひなれども

なにとこはかずまへられぬ身の程に人を恨むる心ありけむ
                               1120
うきふしをまづ思ひしる涙かなさのみこそはと慰むれども

さまざまに思ひみだるる心をば君がもとにぞつかねあつむる

もの思へばちぢに心ぞくだけぬるしのだの森の枝ならねども

かかる身におふしたてけむたらちねの親さへつらき戀もするかな

おぼつかな何のむくいのかえりきて心せたむるあたとなるらむ

かきみだる心やすめのことぐさはあはれあはれとなげくばかりぞ

身をしれば人のとがとは思はぬに恨みがほにもぬるる袖かな

なかなかになるるつらさにくらぶればうとき恨はみさをなりけり

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人はうし歎はつゆもなぐさまずこはさはいかにすべき心ぞ

日にそへて恨はいとど大海のゆたかなりける我がなみだかな
                               
さることのあるなりけりと思ひ出でて忍ぶ心を忍べとぞ思ふ

今ぞしる思ひ出でよと契りしは忘れむとての情なりけり

難波潟波のみいとど數そひて恨のひまや袖のかわかむ

心ざしのありてのみやは人をとふなさけはなどと思ふばかりぞ

なかなかに思ひしるてふ言の葉はとはぬに過ぎてうらめしきかな

などかわれことの外なる歎せでみさをなる身に生れざりけむ

汲みてしる人もあらなむおのづからほりかねの井の底の心を

けぶり立つ富士に思ひのあらそひてよだけき戀をするがへぞ行く

涙川さかまくみをの底ふかみみなぎりあへぬ我がこころかな

せと口に立てるうしほの大淀みよどむとしひもなき涙かな
                              
磯のまに波あらげなるをりをりは恨をかづく里のあま人

東路やあひの中山ほどせばみ心のおくの見えばこそあらめ

いつとなく思ひにもゆる我身かな淺間の煙しめる世もなく

播磨路や心のすまに關すゑていかで我が身の戀をとどめむ

あはれてふなさけに戀のなぐさまば問ふことの葉や嬉しからまし

物思ひはまだ夕ぐれのままなるに明けぬとつぐるには鳥の聲

夢をなど夜ごろたのまで過ぎきけむさらで逢ふべき君ならなくに

さはといひて衣かへしてうちふせどめのあはばやは夢もみるべき

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戀ひらるるうき名を人に立てじとて忍ぶわりなき我が袂かな

夏草のしげりのみ行く思ひかな待たるる秋のあはれ知られて
                               
くれなゐの色に袂のしぐれつつ袖に秋あるここちこそすれ

あはれとてなどとふ人のなかるらむもの思ふやどの荻の上風

わりなしやさこそもの思ふ袖ならめ秋にあひてもおける露かな

いかにせんこむよのあまとなる程にみるめかたくて過ぐる恨を

秋ふかき野べの草葉にくらべばやもの思ふ頃の袖の白露

もの思ふ涙ややがてみつせ河人をしづむる淵となるらむ

あはれあはれ此世はよしやさもあらばあれこん世もかくや苦しかるべき

たのもしなよひ曉の鐘のおとにもの思ふつみも盡きざらめやは

今日こそはけしきを人に知られぬれさてのみやはと思ふあまりに

さらに又むすぼほれ行く心かなとけなばとこそ思ひしかども
                               
昔よりもの思ふ人やなからまし心にかなふ歎なりせば

よしさらば誰かは世にもながらへむと思ふ折にぞ人はうからぬ

うき身知る心にも似ぬ涙かな恨みんとしもおもはぬものを

今さらに何と人めをつつむらむしぼらば袖のかわくべきかは

あひ見ては訪はれぬうさぞ忘れぬるうれしきをのみまづ思ふまに

うとくなる人を何とて恨むらむ知られず知らぬ折もありしを

我が戀はみしまが澳にこぎ出でてなごろわづらふ海人のつり舟

うらみてもなぐさみてましなかなかにつらくて人のあはぬと思はば

はるかなる岩のはざまにひとりゐて人目つつまでもの思はばや

人はこで風のけしきのふけぬるにあはれに雁のおとづれて行く

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 戀百十


思ひあまりいひ出でてこそ池水の深き心のほどは知られめ

なき名こそしかまの市に立ちにけれまだあひ初めぬ戀するものを

つつめども涙の色にあらはれて忍ぶ思ひは袖よりぞちる

わりなしや我も人目をつつむまにしひてもいはぬ心づくしは

なかなかにしのぶけしきやしるからむかかる思ひに習なき身は

氣色をばあやめて人のとがむともうちまかせてはいはじとぞ思ふ

心にはしのぶと思ふかひもなくしるきは戀の涙なりけり

色に出でていつよりものは思ふぞと問ふ人あらばいかがこたへむ

逢ふことのなくてやみぬるものならば今みよ世にもありやはつると

うき身とて忍ばば戀のしのばれて人の名だてになりもこそすれ
                               
みさをなる涙なりせばから衣かけても人に知られましやは

歎きあまり筆のすさびにつくせども思ふばかりはかかれざりけり

わが歎く心のうちのくるしさを何にたとへて君に知られむ

今はただ忍ぶ心ぞつつまれぬなげかば人や思ひしるとて

心にはふかくしめども梅の花折らぬ匂ひはかひなかりけり

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さりとよとほのかに人を見つれども覺めぬは夢の心地こそすれ

消えかへり暮待つ袖ぞしをれぬるおきつる人は露ならねども

いかにせんその五月雨のなごりよりやがてをやまぬ袖の雫を

さるほどの契はなににありながらゆかぬ心のくるしきやなぞ

今はさは覺めぬを夢になしはてて人に語らでやみねとぞ思ふ
                              
折る人の手にはたまらで梅の花誰がうつり香にならむとすらむ

うたたねの夢をいとひし床の上の今朝いかばかり起きうかるらむ

ひきかへて嬉しかるらむ心にもうかりしことを忘れざらなむ

棚機は逢ふをうれしと思ふらむ我は別のうき今宵かな

おなじくは咲き初めしよりしめおきて人にをられぬ花と思はむ

朝霧にぬれにし袖をほす程にやがて夕だつわが涙かな

待ちかねて夢に見ゆやとまどろめば寢覺すすむる荻の上風

つつめども人しる戀や大井川ゐせぎのひまをくぐる白波

あふまでの命もがなと思ひしは悔しかりける我がこころかな

今よりはあはで物をば思ふとも後うき人に身をばまかせじ
                               
いつかはとこたへむことのねたきかな思ひもしらず恨きかせよ

袖の上の人めしられし折まではみさをなりける我が涙かな

あやにくに人めもしらぬ涙かなたえぬ心にしのぶかひなく

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荻の音はもの思ふ我になになればこぼるる露に袖のしをるる

草しげみ澤にぬはれてふす鴫のいかによそだつ人の心ぞ

あはれとて人の心のなさけあれな數ならぬにはよらぬなさけを

いかにせむうき名を世々にたて果てて思ひもしらぬ人の心を

忘られむことをばかねて思ひにきなどおどろかす涙なるらむ

とはれぬもとはぬ心のつれなさもうきはかはらぬ心地こそすれ

つらからむ人ゆゑ身をば恨みじと思ひしかどもかなはざりけり
                               
今更に何かは人もとがむべきはじめてぬるる袂ならねば

わりなしな袖に歎きのみつままに命をのみもいとふ心は

色ふかき涙の河の水上は人をわすれぬ心なりけり

待ちかねてひとりはふせど敷妙の枕ならぶるあらましぞする

とへかしななさけは人の身のためをうきものとても心やはある

言の葉の霜がれにしに思ひにき露のなさけもかからましかば

夜もすがら恨を袖にたたふれば枕に波の音ぞきこゆる

ながらへて人のまことを見るべきに戀に命のたたむものかは

たのめおきし其いひごとやあだになりし波こえぬべき末の松山

川の瀬によに消えぬべきうたかたの命をなぞや君がたのむる
                               
かりそめにおく露とこそ思ひしかあきにあひぬる我がたもとかな

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おのづからありへばとこそ思ひつれたのみなくなる我が命かな

身をもいとひ人のつらさも歎かれて思ひ數ある頃にもあるかな

菅の根のながく物をば思はじと手向し神に祈りしものを

うちとけてまどろまばやは唐衣よなよなかへすかひもあるべき

我つらきことをやなさむおのづから人めを思ふ心ありやと

こととへばもてはなれたるけしきかなうららかなれや人の心の

もの思ふ袖に歎のたけ見えてしのぶしらぬは涙なりけり

草の葉にあらぬ袂ももの思へば袖に露おく秋の夕ぐれ

逢ふことのなき病にて戀ひ死なばさすがに人やあはれと思はむ
                               
いかにぞやいひやりたりしかたもなく物を思ひて過ぐる頃かな

我ばかりもの思ふ人や又もあると唐土までも尋ねてしがな

君に我いかばかりなる契ありて間なくも物を思ひそめけむ

さらぬだにもとの思ひの絶えぬ間に歎を人のそふるなりけり

我のみぞ我が心をばいとほしむあはれむ人のなきにつけても

うらみじと思ふ我さへつらきかなとはで過ぎぬる心づよさを

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いつとなき思ひは富士の烟にておきふす床やうき島が原

これもみな昔のことといひながらなど物思ふ契なりけむ

などか我つらき人ゆゑ物を思ふ契をしもは結び置きけむ

くれなゐにあらぬ袂のこき色はこがれてものを思ふ涙か
                               
せきかねてさはとて流す瀧つせにわく白玉は涙なりけり

なげかじとつつみし頃は涙だに打ちまかせたる心地やはせし

ながめこそうき身のくせとなり果てて夕暮ならぬ折もわかれぬ

今は我戀せん人をとぶらはむ世にうきことと思ひ知られぬ

思へども思ふかひこそなかりけれ思ひもしらぬ人を思へば

あやひねるささめのこ蓑きぬにきむ涙の雨を凌ぎがてらに

なぞもかくことあたらしく人のとふ我が物思はふりにしものを

死なばやと何思ふらむ後の世も戀はよにうきこととこそきけ
 
わりなしやいつを思ひの果にして月日を送るわが身なるらむ

いとほしやさらに心のをさなびてたまぎれらるる戀もするかな
                              
君したふ心のうちはちごめきて涙もろにもなる我が身かな

なつかしき君が心の色をいかで露もちらさで袖につつまむ

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いくほどもながらふまじき世の中にものを思はでふるよしもがな

いつか我ちりつむとこを拂ひあげてこむとたのめむ人を待つべき

よだけだつ袖にたぐへて忍ぶかな袂の瀧におつる涙を

うきによりつひに朽ちぬる我が袖を心づくしに何忍びけむ

心からこころに物をおもはせて身をくるしむる我が身なりけり

ひとりきて我が身にまとふ唐衣しほしほとこそ泣きぬらさるれ

いひ立てて恨みばいかにつらからむ思へばうしや人のこころは

なげかるる心のうちのくるしさを人の知らばや君にかたらむ
                               
人しれぬ涙にむせぶ夕ぐれはひきかづきてぞうちふされける

思ひきやかかるこひぢに入り初めてよく方もなき歎せんとは

あやふさに人目ぞ常によかれける岩の角ふむほきのかけ道

知らざりき身にあまりたる歎して隙なく袖をしぼるべしとは

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吹く風に露もたまらぬ葛の葉のうらがへれとは君をこそ思へ

我からと藻にすむ虫の名にしおへば人をば更にうらみやはする

むなしくてやみぬべきかな空蝉の此身からにて思ふなげきは

つつめども袖より外にこぼれ出でてうしろめたきは涙なりけり

我が涙うたがはれぬる心かな故なく袖のしぼるべきかは

さることのあるべきかはとしのばれて心いつまでみさをなるらむ
                               
とりのくし思ひもかけぬ露はらひあなくしたかの我が心かな

君にそむ心の色の深さには匂ひもさらに見えぬなりけり

さもこそは人め思はずなりはてめあなさまにくの袖のけしきや

かつすすぐ澤のこ芹のねを白み清げにものを思はするかな

いかさまに思ひつづけて恨みましひとへにつらき君ならなくに

恨みてもなぐさめてまし中々につらくて人のあはぬと思へば

うちたえで君にあふ人いかなれや我が身も同じ世にこそはふれ

とにかくにいとはまほしき世なれども君が住むにもひかれぬるかな

何ごとにつけてか世をば厭はましうかりし人ぞ今はうれしき

あふと見しその夜の夢のさめであれな長き眠りはうかるべけれど
 此歌、題も、又、人にかはりたることどももありけれどかかず、
 此歌ども、山里なる人の、語るにしたがひてかきたるなり。
 されば、ひがごとどもや、昔今のこととりあつめたれば、
 時をりふしたがひたることどもも。

                               
 陰陽頭に侍りける者に、ある所のはした者、もの申しけり。
 いと思ふやうにもなかりければ、六月晦日に遣しけるにかはりて

我がためにつらき心をみな月のてづからやがてはらへすてなむ

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 百首の歌の中、戀十首


ふるき妹がそのに植えたるからなづな誰なづさへとおほし立つらむ

紅のよそなる色は知られねばふでにこそまづ染め初めけれ

さまざまの歎を身にはつみ置きていつしめるべき思ひなるらむ

君をいかにこまかにゆへるしげめゆひ立ちもはなれずならびつつみむ

こひすともみさをに人にいはればや身にしたがはぬ心やはある

思ひ出でよみつの濱松よそだつるしかの浦波たたむ袂を

うとくなる人は心のかはるとも我とは人に心おかれじ

月をうしとながめながらも思ふかなその夜ばかりの影とやは見し

我はただかへさでを着むさ夜衣きてねしことを思ひ出でつつ
                               
川風にちどり鳴くらむ冬の夜は我が思にてありけるものを

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