遊び来ぬ鰒釣りかねて七里まで
あら何ともなや昨日は過ぎて河豚汁
霰聞くやこの身はもとの古柏
霰せば網代の氷魚を煮て出さん
霰まじる帷子雪は小紋かな
有明も三十日に近し餅の音
いかめしき音や霰の檜木笠
生きながら一つに氷る海鼠かな
いざ子供走りありかん玉霰
いざ行かむ雪見にころぶ所まで
石山の石にたばしる霰哉
市人よこの笠売らう雪の笠
いづく時雨傘を手に提げて帰る僧
五つ六つ茶の子にならぶ囲炉裏哉
いらご崎似るものもなし鷹の声
魚鳥の心は知らず年忘れ
埋火も消ゆや涙の烹ゆる音
埋火や壁には客の影法師
馬をさえ眺むる雪の朝かな
海暮れて鴨の声ほのかに白し
恵比須講酢売に袴着せにけり
馬方は知らじ時雨の大井川
梅椿早咲き褒めん保美の里
幼名や知らぬ翁の丸頭巾
小野炭や手習ふ人の灰ぜせり
御命講や油のような酒五升
面白し雪にやならん冬の雨
折々に伊吹を見ては冬籠り
かくれけり師走の海のかいつぶり
笠もなきわれを時雨るるかこは何と
被き伏す蒲団や寒き夜やすごき
徒歩ならば杖突坂を落馬かな
瓶割るる夜の氷の寝覚め哉
乾鮭も空也の痩も寒の中
雁さわぐ鳥羽の田面や寒の雨
借りて寝ん案山子の袖や夜半の霜
枯枝に烏のとまりたるや秋の暮
寒菊や醴造る窓の前
寒菊や粉糠のかかる臼の端
菊の後大根の外更になし
きみ火をたけよき物見せん雪丸げ
狂句木枯しの身は竹斎に似たるかな
京に飽きてこの木枯や冬住ひ
今日ばかり人も年寄れ初時雨
京まではまだ半空や雪の雲
きりぎりす忘れ音に啼く火燵哉
金屏の松の古さよ冬籠り
草枕犬も時雨るるか夜の声
薬飲むさらでも霜の枕かな
鞍壷に小坊主乗るや大根引
暮れ暮れて餅を木魂の侘寝哉
黒森をなにといふとも今朝の雪
けごろもにつつみて温し鴨の足
今朝の雪根深を園の枝折哉
口切に堺の庭ぞなつかしき
消炭に薪割る音かをのの奥
氷苦く偃鼠が喉をうるほせり
木枯に岩吹きとがる杉間かな
こがらしや頬腫痛む人の顔
凩に匂ひやつけし返り花
こがらしや頬腫痛む人の顔
木枯しや竹に隠れてしづまりぬ
この海に草鞋捨てん笠時雨
古法眼出どころあはれ年の暮
米買ひに雪の袋や投頭巾
これや世の煤に染まらぬ古合子
ごを焚いて手拭あぶる寒さ哉
さし籠る葎の友か冬菜売り
寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき
さればこそ荒れたきままの霜の宿
三尺の山も嵐の木の葉哉
塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店
塩にしてもいざ言伝ん都鳥
萎れ伏すや世はさかさまの雪の竹
しぐるるや田の新株の黒むほど
時雨をやもどかしがりて松の雪
しのぶさへ枯れて餅買ふやどりかな
柴の戸に茶を木の葉掻く嵐かな
霜枯に咲くは辛気の花野哉
霜の後撫子咲ける火桶哉
霜を踏んでちんば引くまで送りけり
錠明けて月さし入れよ浮御堂
少将の尼の話や志賀の雪
水仙や白き障子のとも移り
煤掃は己が棚つる大工かな
煤掃は杉の木の間の嵐哉
須磨の浦の年取り物や柴一把
住みつかぬ旅の心や置炬燵
節季候の来れば風雅も師走哉
節季候を雀の笑ふ出立かな
せつかれて年忘れする機嫌かな
芹焼や裾輪の田井の初氷
雑水に琵琶聴く軒の霰かな
袖の色よごれて寒し濃鼠
その形見ばや枯れ木の杖の長
その匂ひ桃より白し水仙花
鷹一つ見付けてうれし伊良湖崎
茸狩やあぶなきことに夕時雨
旅に病で夢は枯野をかけ廻る
旅寝して見しやうき世の煤はらい
旅寝よし宿は師走の夕月夜
旅人とわが名呼ばれん初しぐれ
ためつけて雪見にまかる紙子かな
たわみては雪待つ竹の気色かな
千鳥立ち更け行く初夜の日枝颪
長嘯の墓もめぐるか鉢叩き
作りなす庭をいさむる時雨かな
月白き師走は子路が寝覚め哉
月花の愚に針立てん寒の入り
月やその鉢木の日のした面
月雪とのさばりけらし年の暮
露凍てて筆に汲み干す清水哉
霜を着て風を敷き寝の捨子哉
白炭やかの浦島が老の箱
たふとさや雪降らぬ日も蓑と笠
磨ぎなほす鏡も清し雪の花
年暮れぬ笠きて草鞋はきながら
年の市線香買ひに出でばやな
なかなかに心をかしき臘月哉
納豆切る音しばし待て鉢叩き
何にこの師走の市にゆく烏
難波津や田螺の蓋も冬ごもり
波の花と雪もや水の返り花
なりにけりなりにけりまで年の暮
庭掃きて雪を忘るる帚かな
盗人に逢うた夜もあり年の暮れ
葱白く洗ひたてたる寒さ哉
箱根こす人も有るらし今朝の雪
初時雨猿も小蓑を欲しげなり
初時雨初の字を我が時雨哉
初雪に兎の皮の髭作れ
初雪やいつ大仏の柱立
初雪や懸けかかりたる橋の上
初雪や幸ひ庵にまかりある
初雪や水仙の葉のたわむまで
初雪や聖小僧が笈の色
花みな枯れてあはれをこぼす草の種
蛤の生けるかひあれ年の暮
半日は神を友にや年忘れ
一尾根はしぐるる雲か富士の雪
ひごろ憎き烏も雪の朝哉
一時雨礫や降って小石川
一露もこぼさぬ菊の氷かな
人に家を買はせて我は年忘れ
人々をしぐれよ宿は寒くとも
屏風には山を画書いて冬籠り
比良三上雪さしわたせ鷺の橋
琵琶行の夜や三味線の音霰
貧山の釜霜に鳴く声寒し
二人見し雪は今年も降りけるか
振売の雁あはれなり恵美須講
旧里や臍の緒に泣く年の暮
冬籠りまた寄りそはんこの柱
冬知らぬ宿や籾摺る音霰
冬庭や月もいとなる虫の吟
冬の日や馬上に凍る影法師
冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす
分別の底たたきけり年の昏
星崎の闇を見よとや啼く千鳥
まづ祝へ梅を心の冬籠り
皆出でて橋を戴く霜路哉
皆拝め二見の七五三を年の暮
宮守よわが名を散らせ木葉川
麦生えてよき隠れ家や畑村
物書きて扇引さく余波哉
もののふの大根苦しき話哉
山城へ井出の駕籠借る時雨哉
雪散るや穂屋の薄の刈り残し
雪の朝独り干鮭を噛み得タリ
雪や砂馬より落ちよ酒の酔
雪を待つ上戸の顔や稲光
夜着は重し呉天に雪を見るあらん
夜着ひとつ祈り出して旅寝かな
夜すがらや竹氷らする今朝の霜
雪散るや穂屋の薄の刈り残し
雪と雪今宵師走の名月か
雪や砂馬より落ちよ酒の酔
行く雲や犬の駆け尿村時雨
夢よりも現の鷹ぞ頼もしき
留守のまに荒れたる神の落葉哉
炉開きや左官老い行く鬢の霜
忘れ草菜飯に摘まん年の暮